第4編 有機化合物

第4章 芳香族化合物

1芳香族炭化水素2フェノール類

3芳香族カルボン酸 4芳香族アミンとアゾ化合物

5有機化合物の分離

 芳香族炭化水素

 

【芳香族炭化水素】

分子中にベンゼン環をもつものを芳香族炭化水素という。ベンゼンC6H66個の炭素原子が正六角形の環を形成する。ベンゼン環の炭素原子間の結合は,単結合と二重結合が交互にできている。

 

主な芳香族炭化水素 

 

芳香族炭化水素は,工業的にナフサ(炭素数の大きい炭化水素)の触媒による接触改質(リフォーミング)によって得られる。上記の化合物では,ベンゼンからスチレンまでは常温で液体,ナフタレン以降は固体である。特有のにおいもつ可燃性の物質で水に溶けにくい。また,炭素の含有率が高いので燃やすと多量のすすを出す。

 

【芳香族炭化水素の反応】

ベンゼン環は正六角形である。しかし,炭素原子間の距離はCC CC CCである。ベンゼンにおいて単結合と二重結合が完全に分かれているならば,ベンゼンは正六角形にはならないはずである。ベンゼンの炭素原子間の距離は,単結合と二重結合の間の値となることが計算され分かっている。ベンゼンは,実際には環全体で単結合と二重結合の中間の結合をしていると考えられる。この構造は非常に安定で,通常の二重結合で起こる付加反応が起こりにくく,水素原子に対する置換反応が起こりやすくなる

 

置換反応 ベンゼン環の水素原子は色々なものと容易に置換反応を起こす。

@ハロゲン化 

ベンゼンに〔  〕を触媒にしてハロゲン(Cl2,Br2など)を反応させると,ベンゼン環の水素原子がハロゲン原子に置き換わる。

 
 

Aスルホン化

ベンゼンに〔 濃硫酸 〕を加え加熱すると,水素原子が〔 スルホ基 〕−SO3Hに置き換わる。

 
 

Bニトロ化

ベンゼンやトルエンに〔 濃硝酸 〕と〔 濃硫酸 〕の混合物(混酸)を反応させると,ベンゼン環の水素原子が〔 ニトロ基 〕−NO2に置き換わる。このとき,濃硫酸は〔 触媒 〕としてはたらく。

 
 

トルエンのニトロ化はトルエンのメチル基に対してオルトやパラの位置で起こりやすく,温度を上げて反応させると,2,4,6‐トリニトロトルエン(TNT)が得られる。TNTは強力な爆薬として用いられる。

 
 

 配向性: ベンゼンに−OH,−NH2,−CH3,−Clなどが一つ結合している化合物にさらに置換反応をすると,o−位とp−位に置換されやすくなる(オルト・パラ配向性という)。

       一方,−NO2,−COOH,−SO3Hなどが一つ結合している化合物では,m−位に置換されやすくなる(メタ配向性という)。

付加反応: ベンゼン環には二重結合があるため,付加反応をする。しかし,アルケンやアルカンよりも激しい条件が必要となる。

 C6H6 + 3H2 → C6H12 

 
 

酸化反応: 一般にベンゼン環は酸化されにくいが酸化バナジウム(VV2O5を触媒とし,加熱すると,酸化される。(無水マレイン酸になる)

 
 

例題 文中の( )に適当な語句を入れ,下の問に答えよ。

 ベンゼンは分子式(ア)で表せる炭化水素で,石油の改質や(イ)の3分子重合によって得られる無色・特異臭の液体である。ベンセン分子中の原子はすべて同一(ウ)上にあり,分子は(エ)形の形状をしている。このため,ベンゼン分子は無極性分子である。ベンゼンは安定で,アルケンやアルキンに比べて付加反応をおこしにくく,(オ)反応が起こりやすい。空気中では多量のすすを出して燃焼する。

問 エタン,エチレン,アセチレン,ベンゼンを炭素原子間の結合距離が長い順に並べよ。

 

(ア)C6H6 (イ)アセチレン (ウ)平面 (エ)正六角 (オ)置換  問 エタン>ベンゼン>エチレン>アセチレン

 結合の長さは,単結合>二重結合>三重結合である。ベンゼンは完全に単結合と二重結合に分かれているのではなく,実際は環全体で中間の結合(1.5結合のようなもの)をしていると考えられえる。


例題 次の記述にあてはまる芳香族化合物の構造式を記せ。

(1) 分子式がC7H7Clで表され,ベンゼン環に置換基を1つもつ。

(2) 分子式がC9H12で表され,2つの置換基をベンゼン環のパラ位にもつ。

(3) 分子式がC8H10Oで表され,不斉炭素原子をもつアルコールである。

(4) 分子式がC7H6O2で表され,エステル結合をもつ。

 
 

例題 次の各問いに答えよ。

(1) 分子式C6H4Cl2で表される芳香族化合物の構造式と名称をすべて記せ。

(2) 次の分子式で表される芳香族化合物には,何種類の構造異性体が存在するか。

  @ C6H3Cl3  A C8H10  B C7H8O

(3) () o-キシレン,() m-キシレン,() p-キシレンのベンゼン環の水素原子1個を臭素で置換してできる化合物は,それぞれ何種類存在するか。